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    「さうだな、相沢の先代はひどく知吉さんを毛嫌ひしていたさうだな。だが娘がくつついているから仕方がないといふわけでね。――だから、甥にあたる喜作さんを養子にして、それに老後をかゝるつもりだつたのだらう。その時、喜作さんの方に財産を分けたんだよ。ところが、娘が男の子を産んだ。今の市造といつたかな。嫌ひな知吉の子でも、孫にはちがひない、孫は可愛いゝといふわけでね、喜作さんにはそのまゝ財産をつけて神原の方へ籍をもどしたんだな。――それを今かへせといふわけよ」

    「去年はなかつたんですよ。何でも博労ばくらう同士のうちわ揉もめがあつたとかでね」

    「眼が潰つぶれちまふ――ねえ、先生」

    「大石の御老人は見えんやうだな」

    「なあ、ジョン!」

    「相沢さんも見えないな」

    二人とも巻ゲートルに地下足袋姿であつた。そのうちの一人は印袢纏しるしばんてんを着ていた。房一の見たこともない連中だつた。だが、先方ではこの釣竿をかついだ猪首のやうな男が目ざすお医者だと気づいたのだらう、印袢纏の背の高い男は黄く汚れた半シャツの男に向つて、こちらを見ながら何か云つていた。

    「なに、消防演習?」

    「いつから――?」

    「あ、さうだ。お茶、お茶。おい、お茶を出してくれ」

    「いや、それあ貰つたのが分家だから、相手はやつぱり分家の喜作さんさね」

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